世の中には、全然見えないというわけではないが、目の病気のためにとても不自由な見え方をしている人がいます。例えば、小さい字が見えない、色が分からない、薄暗いところでは見えにくい、視野が狭いなど、見え方は百人百様です。また、弱視者の中には、拡大文字を使用している人もいれば、点字を使用している人もいます。
このような目の悪い人──弱視者は、視覚障害者の約7、8割を占め、約30万人いると言われています。弱視者は、その外見から目の不自由なことが相手に分かりにくく、自分からも目の悪いことを言い出せずにいることも多いのです。弱視者は、道で知人とすれ違っても気づかない、気軽に本が読めない、運賃表等が見えない、なかなか仕事に就けない、見えないのに見えるふりをしてしまうなど、社会生活を送る上で誤解を招いたり、差別を感じたり、不自由な思いをすることが多いのです。
埼玉弱視者問題研究会(埼玉弱問研)は、90年7月に発足以来、弱視者が抱えている様々な問題を解決するため活動してきました。
主な活動内容は、金融機関における視覚障害者対応のATM導入、弱視者にやさしい街づくり、労働問題や弱視児を持つ親との懇談会、パソコン教室、拡大写本ボランティアグループとの交流など広範囲にわたるものです。
月に1度定例会を開き、自分たちが直面している問題を素直に出し合い、お互いに持っている情報や問題解決へのノウハウを交換したりしながら、弱視者の生活が少しでも向上するように活動しています。
このように、中途半端な見え方をする弱視者には、健常者にとつては何でもない街の環境がとても危険な場合があります。これらの危険は、弱視者が日常生活を営む上で避けなければならないものです。
また、視覚障害者以外にも、街の中で危険を感じたり、不自由な思いをする障害者はたくさんいるはずです。障害者に限らず高齢者も不自由を感じるはずです。
これらの人々が皆、同じ視点で不自由を感じるわけでもなく、同じ改善方法でその不自由が解消されるわけでもありませんが、健常者も含め共通することは、安全な社会環境を作り上げたいということだと思います。
第2部には、弱視者からの観点で、日頃危険を感じていることなど、3つの視点から問題と思うものをあげてみました。これらの改善によって、弱視者が健常者と、より暮らしやすい社会を作るためのガイドラインとして検討されることを強く望んでいます。
点字ブロックの色は、一般的に黄色が使われてきました。しかし、最近は舗装材にタイルが使用されることが多くなり、品よくおしゃれな点字ブロックが増えてきています。
弱視者にとっては、まわりの色と調和した点字ブロック、つまり目立たない点字ブロックでは意味がありません。
部分的でも視覚を利用して歩いている弱視者にとって、点字ブロックは歩く時の大きな手助けになります。歩く方向の目安になり、少なくとも点字ブロックの上を歩いている限り、安全は保障されていますから…。派手で目立つ色、なおかつ周りの床色とコントラストがはっきりしている点字ブロックが必要です。
具体的には、舗装がアスファルトやコンクリートで灰色、または、レンガのようなこげ茶色などの濃い色の場合には黄色の点字ブロックを使用し、駅構内や地下鉄の通路などで使用されている薄黄色、薄茶色やベージユ色のタイル舗装では、黄色でなくこげ茶色などもっと濃い色の点字ブロックが必要です。
樹脂製の点字ブロックは、接着剤で貼り付けているために、時間の経過により剥がれてしまうケースがよくあります。このため、歩道に埋め込む方法をとることが望ましい敷設方法だと考えます。
点字ブロックにライトを埋め込んで、夜間に発光する点字ブロックを敷設している箇所があります。ある程度の視覚を頼りに歩行している弱視者にとって、このような点字ブロックは、夜間の歩行において目印になり、安全性の向上にもつながると考えます。
点字ブロックの不適切な設置が、しばしば問題点になることがあります。具体的には、横断歩道から外れて設置されていたり、電柱などの直前で、急に方向を変えるなどの例があります。このような怪我や事故につながる危険個所の点検を行うとともに、新たな設置に当たっては、計画当初から十分な配慮が必要だと考えます。(写真1参照)
歩道以外にも駅や銀行などの公共機関への点字ブロックの敷設が進んできていますが、歩道と建物を結び、建物内に導くような形での敷設の例はほとんどありません。
点字ブロックには、歩行の安全を図り、なおかつ目的の場所へ導くという意味があります。この点からも、歩道と公共機関の入口とを結ぶ点字ブロックの設置が必要です。
写真1 壁へ直進する点字ブロック
弱視者にとって、日中の明るさの中や、夜間の商店の照明などにまぎれた状態の中では、信号機の「色」の判別は困難、あるいは「できない」場合が多くあります。人や車の流れから道路横断が可能かどうかを判断しているのが実状で、極めて危険な状態だといえます。
これは、生命に関わる問題であり、音声信号機の早急な整備が求められます。
音声信号機に「盲人用」と書かれた手押しボタンが付けられ、これを押さないと音声が鳴らないタイプの信号機があります。しかし、視覚障害者にはそのボタンの位置が分かりにくく、音声機能を有効に利用できていないことが多くあります。
音声信号機の場合には、この手押しボタンを撤廃し、歩行者側の信号が青の時は、常時音声が鳴るようにする必要があります。
階段や段差の最大の問題点は、“どこから階段が始まるのか” “どこで終わるのか” “どこに段差があるのか”が分からずに危険な思いをすることです。段差に躓いたり階段から落ちたりというのは多くの視覚障害者が何度も経験していることです。
段差に関しては、できるだけスロープにすることが必要です。その際に歩道と車道との区別を明確にするために、車道との切れ目の歩道側に点字ブロックを敷設し、階段に関しても、段鼻と踏み面との色のコントラストをはっきりつけます。その際、段鼻の一部ではなく全体をふちどることで、段のあるなしがはっきりします。さらに、階段の始めと終わりには点字ブロックを敷設し、踊り場に関しては、降り始めのところにのみ点字ブロックを敷設します。そして、これらをルール化してきちんと統一させることがもっとも重要です。不統一は不必要な混乱を招くことを付け加えておきます。(写真2参照)
写真 2 弱視には段差がわかりづらい階段
道路の照明が不十分な箇所があります。また、せっかくの照明灯が街路樹で遮られ、歩道上に照明が届かない例などもあります。
道路上の十分な明るさを確保するための照明灯を適正に配置し、街路樹で照明が遮られることを避けるための配置上の工夫や、街路樹の管理を行う必要があります。さらに、配置する際には、灯柱が弱視者や視覚障害者の歩行の支障にならないように十分な配慮が必要です。
弱視者にとって、特に歩道の中央付近に設置されたものや、標識の柱が細いものなどは、その存在に気付きにくく、怪我の原因となる場合があります。
まず道路上の標識を抜本的に解消し、街路灯などに集中化することで、数的な減少を図ることが必要です。さらに、標識を歩道上に建柱しない工夫が求められます。
歩道への自動車の進入を防ぐための車止めが、弱視者や視覚障害者の歩行の際の大きな障害物になっています。ぶつかったり躓いたりして、怪我をする危険な存在になっています。ある意味では、これは駐車中の自動車よりも危険で、車止めの設置は不必要です。既存の車止めの撤去が求められます。(写真3・4参照)
写真 3 歩道の真ん中に立つ車止め
写真 4 背丈が低く見えづらい車止め
歩道上の電柱を抜本的に減少させる必要があります。そのために宅内建柱を促進させることや、電線の地中化を促進させる必要があります。
支線については、ワイヤーの覆を徹底し、判別しやすいように改良が求められます。電柱や支線については、その存在に気付き易いような色にするなどの工夫が必要です。(写真5参照)
写真 5 狭い歩道上に立つ電柱
歩道中央部には街路樹、植栽帯、モニュメント等の構造物を配置しない計画とします。配置されている場合は、移植や移設を行うことが必要です。
商店の敷地からはみだしている看板・商品は、弱視者にとっては主につまづく存在です。道路管理者が積極的に商店への啓発、指導、取り締まりを行う必要があります。(写真6参照)
写真 6 はみだし看板
道路管理者が積極的に利用者への啓発、指導、取り締まりを行います。駐輪場をきちんと整備し、利用者にその利用を徹底させる行政の努力が重要になります。(写真7・8参照)
写真 7 歩きづらい原因となる放置自転車
写真 8 点字ブロックを隠している放置自転車
雨水などを流すために、道路脇に側溝を設ける箇所があります。この場合、溝の深さに関わらず蓋をすることが必要です。
最近では景観に配慮し、溝を非常に浅くし、その代わりに蓋をなくして一見側溝があるとは分かりにくくなっている箇所を時々見かけますが、弱視者は、特にこのような側溝があることに気づかずに、躓いて怪我をする危険があります。また、側溝に金網をかぶせる場合でも、視覚障害者が使用する杖の先が、網の目にはまってしまうのを防ぐために、目を細かくするなどの措置が必要です。
歩道や路地の周辺部よりも低くなっているところや、水辺の道路には、転落防止柵が設けられているところがありますが、十分にその機能を果たさない場所があります。柵の高さが50センチ程度以下であったり、鎖やロープが張られているだけでは、高低差に気づかない視覚障害者はもとより、幼児なども転落する危険性が高くなります。特に、交差点付近や路肩がカーブしている箇所は、転落の危険性が高くなります。
このような危険箇所には、高さ100センチ以上の堅牢な柵・ガードレールを設けることが必要です。これらは、白色などの目立つ色で、万一歩行者などが衝突しても怪我をしないようなものでなければなりません。また、杖を落としたり、脚からの転落の可能性もあるので、路面付近に大きな透き間がなく、歩行者側に支柱などの出っ張りのないものが必要です。
弱視者の立場から見た交通バリアフリーと望ましい案内表示もぜひごらんください。