埼玉弱視者問題研究会(埼玉弱問研)では、弱視者の立場から日常生活を送る上で困ることや不便なことを少しでも改善できるよう、会員同士での情報交換を図るとともに、自分たちの暮らしやすい社会を目指してアピールする活動をしてきた。
特に、自動車を運転できない我々にとって、非常に重要な移動手段である鉄道の利用しやすさについて、以前より取り組んできた。(「弱視者の鉄道利用での表示を中心とした課題」参照)
今回、2005年8月に開業した、つくばエクスプレス線(TX)を、開業2ヶ月後の土曜日に、首都圏の会員15名ほどで見学してきた。基本的には、JR武蔵野線との接続駅である南流山駅から守谷駅まで乗車し、この両駅を中心に見学をした。なお、一部のメンバーは秋葉原駅から南流山駅の間も乗車した。
ここにその時の参加者のレポートを整理して掲載する。交通バリアフリー法の施行後にできた新しい鉄道であり、既存の鉄道より障害者の利用について配慮されている部分がたくさんあった。しかし、弱視という立場から見ると、「もう少しこうだったらもっと助かるのになあ」と思うところもあった。
このレポートは、参加者の感想や意見をなるべく率直にまとめたものである。私たちがもっと安心して鉄道を利用して出歩け、社会の一員として生き生きと暮らせる世の中になるために、このレポートが活かされれば幸いである。
TXのユニバーサルデザインとして「見通しが良く明るい空間」と謳われているとおり、広く見通せて明るいので心身への負担が少ない。
壁や柱に貼られたものは、低めで目の高さにあるので見やすいが、そのような表示は全体的に少なかった。
吊り下げ式のものは、高すぎて見ることが難しい。
秋葉原駅では、手書きの乗り換え案内が壁に貼ってあったので助かった。特に地下駅では壁が多いので、もっと壁を活用して欲しい。また、床に矢印などの表示があれば分かりやすい。
音声と触地図による構内案内は役立つ。せっかく良いものがあるのに、その存在に気付けないという声もあった。誘導ブロックだけでなく、常に音声を流す形で存在をアピールした方が利用しやすい。
駅を訪れてこれから電車に乗る人たち向けの案内が主になっているので、駅を出る人がどちらへ行けばいいのか分かりにくい。他の鉄道への乗り換えや「○○方面出口」などの案内もしてもらえたら更に良い。
他社と比べて低めに配置されているが、やはり位置が高すぎて見えにくい。
点字運賃表には墨字も併記されてあり、JR線のものよりは見やすいが、やはり文字が小さく読みにくい。点字が読めない弱視者も多いので、目の高さで大きな文字のものも別に用意して欲しい。
点字運賃表のほか、点字による所要時間表(各列車種別の停車駅と時間の表)が用意されていて、点字利用者に好評だった。誘導ブロックも設置されていたが、これらの二種類の表が券売機の左右に分かれているので券売機左側にある点字運賃表に気付かずに戸惑う人もいた。
テンキーでタッチパネルの代替操作ができるのは良い。音声もクリアで聞きやすく、音の大きさも適当だった。パスネットをテンキー操作で買うことができるのも、他社に比べ便利なため好評だった。
タッチパネルの料金部分は数字が大きく見やすかった。ただ、初期画面が列車の写真になっていて、お金を入れるか画面に触れないとボタン表示にならない点は、戸惑ってしまう人もいて不評だった。
TXが取り入れたユニバーサルデザインの項目の中に、「幅の広い自動改札口」と「改札脇のオープンカウンターの接客通路」が挙げられており、改札口は確かに幅が広く通りやすい。
誘導ブロックはオープンカウンターの有人改札に誘導されており、駅員との距離が近いので何か聞きたいときなども聞きやすい雰囲気だった。
南流山駅では、改札口の中の自動精算機の場所が少し奥まったところにあり、周辺の照明も薄暗く分かりにくかった。誘導ブロックもなく、「精算機」の表示も高い位置にあり確認しにくい。
エスカレータの乗り口付近で、行き先などが音声でアナウンスされているのは助かる。しかし、音量が小さくかなり近づかないと聞こえない。「足下に注意」などのアナウンスの間待つ必要もあり、聞いていると後ろから来た人の妨げになる心配がある。少し手前の離れた位置からでも聞こえるようにして欲しい。
階段が併設されていない場合、乗れる方向のエスカレータへの誘導ブロックが欲しい。
乗り口の手前に走行方向を示す矢印が床などに大きく表示してあると、方向が分かりやすい。
乗降口付近に天井から吊り下げられている出口やホームの番線などの案内は、近づいたり立ち止まって見ることができず非常に困る。壁(目の高さ付近)や床を活用した案内サインが欲しい。
エスカレータが複数並んでいる箇所では、どこでも「左側が走行方向」といったように統一がとれていると安心だが、現状はばらばらなので逆方向に乗らないかいつも緊張してしまう。
音声アナウンスなどもあり、全体として使いやすい。
操作ボタンも、特に不都合を感じるものはなかった。守谷駅のものは秋葉原駅のものより操作ボタンが見やすかった。
段鼻に濃い色の縁取りがあって、踏面とのコントラストがはっきりして見やすく安心して使える。
階段付近でピヨピヨといった鳥のさえずりの音が聞こえるが、鉄道会社全般で統一されると分かりやすい。
南流山駅では、ホームに下りる階段が陰に隠れていて見つけにくかった。
音声案内があるが、音声を流すためのボタンが手すりにあり、知らないと使えない。
案内板は男女の色分けがされているので分かりやすい。文字や絵はもう少し大きいほうが見やすい。
段差が無く広く入りやすい。また、洗面台以外に化粧台があるなど、使い勝手も良い。
個室の扉が周囲と違う色でデザインされている駅があり分かりやすい。
個室の水を流す方法が手をかざす方式で、JRのものより発光部が大きく見つけやすい。しかし視力がないと探すのが困難なので、トイレットペーパーの上などに設置場所が統一されると良い。
すべての駅のホームに可動式ホーム柵が設置されており、線路に落ちる心配がなく、安心して歩ける。
柱がホームの中央付近に建てられており、広々としていて歩きやすい。
ホーム柵の扉の左右には、車両番号やドア番号などの詳しい案内情報が墨字と点字で表記されており、現在位置が確認できる。階段やエスカレータの方向を示す表示もあるので、初めての駅でも出口の方向が分かり便利である。
これは既存のホーム柵にはなかったことで、他社でも取り入れて欲しい。
時刻表は、列車種別などが色分けだけでなく記号でも区別されており、色の区別がつきにくい人にも配慮されている。設置されている高さも良かった。しかし、どうしても上の方が見づらい。
電光表示板は高い位置にあるために見えにくい。遅延などのトラブル時には放送との併用が必要である。
ホームの自動案内放送は、やや音量が小さい。列車が駅に着いた際にどこの駅に着いたのか聞き取りにくい。タイミングも早すぎて、ドアが開く前に流れているようだ。
上りと下りが同時に放送されるような場合も聞き取りにくい。この点では、東京メトロの方が明瞭である。
案内内容は、列車種別や次の停車駅など必要最低限は放送されていたので良い。
案内放送はすべて自動化されているので、「当たり外れ」がない。
放送内容は、次の停車駅と乗り換え案内のほか、その次の停車駅、そして快速等の場合はその間の通過駅となっていて、必要な情報は網羅されている。さらに各駅停車の場合にも二つ目の停車駅が案内されるため、ゆとりを持って降車準備ができる。
ただ、音量が小さく、特にトンネル走行時などは聞き取りにくい。ある程度の騒音の中でも、明瞭に聞き取れるようにして欲しい。
各扉には「車内点字案内標」が設置され、「○号車○番ドア」と表示されているので、自分の乗車位置が確認できて便利である。
このレポートは、弱視者の立場から、鉄道を利用する際の問題点を項目ごとに整理したものである。実際に鉄道を利用した実体験をもとに作成したところに大きな特徴がある。このレポートが、より利用しやすい鉄道のための参考資料となることを願ってやまない。