弱視者の鉄道利用での表示を中心とした課題

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はじめに

 埼玉弱視者問題研究会(埼玉弱問研)は、弱視者が抱えている様々な課題に取り組む活動を行ってきた。

 今回、埼玉弱問研では、弱視者にとって最も身近な公共交通機関である鉄道を利用する場合の利用しやすさや安全性に焦点を当て、駅舎やホーム、車内での表示や掲示、放送案内などを、実際に歩きながら検証した。そこで、いくつかの改善点や要望事項、指摘事項を見出した。これらの点については、第1章以下に記述した。

 視力が弱く、その上視野が狭い、色が分からないなど人それぞれに違った見え方をする弱視者にとって、健常者にとってはさほど気に止める必要がないことでも、危険であったり不便であったりすることがかなりある。逆に健常者には便利なことが、とても不便であったりもする。

 また、弱視者を含む視覚障害者以外にも、鉄道を利用する際、危険を感じたり、不自由な思いをする人たちはたくさんいる。とりわけ、高齢者は、かなりの部分で共通の危険性や不自由さを感じているはずである。

 弱視者が健常者と共存し、鉄道を活用して積極的に社会に参加できる環境を実現するために、このレポートが参考になることを強く望んでいる。

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第1章 駅構内の表示

●運賃表

 券売機上にある運賃表は、弱視者には見えない。運賃表は、目の高さに設置し、文字は大き目のゴシック体とし、地の色と文字の色のコントラストをはっきりつける必要がある。また、現在、多くの駅で点字運賃表に普通の文字を併記し、目の高さに設置しているが、これでは点字と文字が重なって、弱視者には見にくくなる。できる限り別々に設置することが望まれる。

 設置場所については、券売機と券売機の間は避け、券売機近くの壁面とする。設置場所まで誘導ブロックを設置する。券売機と券売機の間では、混雑時やターミナル駅などでは人をかき分けて運賃表の前まで行かねばならず、運賃の確認が難しく、また危険である。

●改札口

 入口と出口が分かれている場合、改札手前の床に進入可能な改札口を矢印で示している駅があった(写真1)。これは、弱視者にもわかりやすく、便利な工夫と言える。

自動改札機が多数並んだ手前の床面に進入可能な方向を示す矢印がある
写真1 わかりやすい進入可能表示

●各種案内表示

 現在の表示は、天井から吊り下げられたものが多いが、中には背後にある商店の看板に埋没してしまい、弱視者にとっては、表示板があること自体が分からないという例もある(写真2)。見つけやすい場所に大きめの文字で表示し、また地の色と文字とのコントラストをはっきりつける必要がある。一部の駅では比較的くっきりとして見易い表示もあり、普及が望まれる(写真3)。

 会社によっては、各路線のカラーを案内板の地の色や文字の色に使用している例があるが、これは色で識別できて便利な反面、コントラストが悪くなる可能性があり、使用に際しては注意が必要である。

 今回、レポートをまとめるに当たっていくつかの路線について調査した範囲では、JR線の表示の中に、表示板の大きさの割に文字が小さく余白を多くとったデザインのものがあり、見やすさよりもデザイン優先という感じが否めなかった。また、他の会社線への乗り換え案内が自社の他線への乗り換え案内より一回り小さな文字で書かれている例も見うけられた。これらは弱視者にとって見にくく、改善が望まれる。

 一方、駅によっては壁面や柱をうまく利用し、乗換え案内や出口案内を掲示しているところがあった。これらは比較的目の高さに近い位置にあり、近づいて確認することが出来るため、弱視者にはとても便利である(写真4)。

コーヒーショップの看板が目立っていて、肝心の表示がどこにあるかわからない
写真2 周囲にまぎれた表示

紺色の地に白い文字でくっきりと書かれたのりば案内
写真3 読みやすいコントラストの表示

改札前の柱の目の高さあたりに朝霞台駅への乗り換えの表示がある
写真4 目の高さで見やすい表示

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第2章 駅構内の安全・案内について

●配色・明るさについて

 駅構内は混雑していて、人をよけて歩かなければならない場合が多く、多少なりとも視力を頼りにできる弱視者にとっても、安心して歩くのは難しい。次のような配慮が必要である。

  1. 床面と柱、壁は類似色にせず、明度差の大きい配色とする。
  2. 階段や段差の前後では床面の色をはっきり区別して欲しい。段鼻には縁取りを付ける。
  3. 夜間のプラットホームの屋根のない部分などに十分な明るさを確保する。
  4. 高架下や列車の停車中に外光の遮られる場所では昼間の照明を考慮する。

●誘導ブロックについて

 全盲の利用者ばかりでなく、周囲の明るさや目の状態などによって、弱視者も誘導・警告ブロックを利用して安全を確保しているケースがある。視覚障害者がプラットホーム上を移動中に誤って線路に転落する事故は後を絶たず、再発防止策が早急にとられることが望まれる。現在、ほとんどのホームには転落防止ブロックが設置されているが、線路から離れた場所を安全に移動するための誘導ブロックがほとんど設置されておらず、結果として転落防止ブロックに沿って移動していて、柱や足下の障害物に接触するなどして転落するケースが多いと思われる。次のような配慮が望まれる。

  1. プラットホーム上を安全に移動できるよう、適切な場所(両側が線路の場合中央部で近くに柱や障害物のないところ)に誘導ブロックを敷設し、出口または乗り換え通路まで誘導する。
  2. プラットホーム端の転落防止ブロックの外側に出ると音声と警告ランプの点灯などで警告する装置がある。このような装置の設置を促進する。
  3. プラットホームの前後、列車の乗降がない部分については、転落防止用の柵を設置する。
  4. 列車乗降口とプラットホームの間が広くあいていたり、段差が生じている箇所は極力解消する。解消できない場合は補助ステップやスロープを設置すると共に常時駅員を置くなどの対策をとる。
  5. 将来的には、営団地下鉄南北線のようなホームドアや埼玉高速鉄道のような可動柵の導入を促進する。

●駅の案内放送について

 駅の案内放送は、列車を利用する上でたいへん重要な情報源になっている。次の点を配慮していただきたい。

  1. 列車到着の予告放送では、列車の行き先、列車種別(快速等)、通過駅がある場合の次の停車駅と途中の通過駅を案内する。

●車内の案内放送について

 車内の案内放送は、列車を利用する上でたいへん重要な情報源になっている。次の点を配慮していただきたい。

  1. 列車内の案内放送が、特に旧式の車両では聞き取りにくかったり、逆に驚くほどの音量のことが多いため、適切な音量で明瞭に行うこと。
  2. 車内放送では、次の停車駅、その後通過する駅がある場合、その駅名を確実に案内すること。
  3. ターミナル駅、終点などについては、到着番線、乗り換え列車の番線や階段の案内をすること。

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第3章 券売機・精算機等

 最近の鉄道は、利用するほぼ全ての場面で、機械を使いこなすことが要求されている。それだけ窓口や現場にいる要員を削減でき、コストを低減できるからだろう。

 弱視者がそれらの機械を使いこなすことはなかなか難しい。

 第1に機種がたくさんあり、それも鉄道会社ごとに異なるだけでなく、同一の会社でさえ多くの種類を採用しているのが実体である。ボタンの位置などを経験的に覚え込むことが難しくなる。

 第2に、最新鋭の機器であればあるほど、多機能化していて、これを液晶のタッチパネルで操作する必要が出てくる。このタッチパネルの表示は、たいていの弱視者には見えない。つまり、このような機器は使えないことになる。

 以下に、改善して欲しい点を列記した。

(1)機種の統一

 多くの駅では何種類かの自動券売機が存在している。例えば最低区間の切符が買えないタイプ、プリペイドカードでしか買えないタイプ、高額紙幣にも対応するタイプなどである。 弱視者にとって自分の買いたい切符が、どの券売機でなら買えるのかを探すのは困難である。特に混雑しているターミナル駅などではなおさらである。 従ってできるだけ券売機の種類を統一する必要がある。

(2)自社線の切符はボタン一つで

 自社線や他社への乗り継ぎ切符などが買える多機能型の券売機で、自社線の切符を買う際、「自社線」のボタンを押さないと買えないタイプがある。 弱視者には、このボタンを探すのは難しい。従って、最も利用頻度の高いと思われる自社線の切符は料金ボタンのみで買えるように改善する。

(3)コントラストのはっきりした文字

 弱視者や高齢者は、券売機の文字が見づらく、切符を買うのにとても苦労する。料金ボタンなど券売機や自動精算機の文字は大きめでコントラストをはっきりさせる。特に、液晶ディスプレイ方式の場合には、この点に留意する。LEDを使用する場合、輝度の低い赤色は避け、明るく見易い緑色LEDを使用する。

(4)タッチパネルの代替操作機能の充実

 タッチパネルの表示が改善されても視力や見え方によっては操作できない場合がある。音声ガイド+テンキーによる等の代替操作を可能にし、通常表示を利用しての操作ができなくても切符の購入ができるような仕組みを整備する。現状では、多くの会社ではテンキーによって大人/子供の片道乗車券1枚の購入が可能になっている。

(5)便利なカードを利用し易く

 最近では、自動改札機を通すだけで料金の支払いができるイオカード/パスネットのようなカードや、SuicaのようなICカード式乗車券が普及してきている。これらのカードは切符の購入や運賃の精算の手間がほとんど不要になるという点で、弱視にとっても便利なものと言える。しかし、これらのカードの購入やICカードへの金額の補充、不足金額の精算作業などが専用券売機やタッチパネルの操作が必要な券売・精算機のみで可能な会社線がある。これでは弱視者はこれらの便利なカードの恩恵を受けられなくなってしまう。テンキー+音声ガイドなどによる代替操作でこれらの作業を可能にして利用法を広く周知して欲しい。それが技術的にできない間は、係員が常駐する窓口でこれらのカードの購入・金額補充・精算ができるようにする。

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あとがき

 このレポートは、弱視者の立場から、鉄道を利用する際の問題点を項目ごとに整理したものである。実際に鉄道を利用した実体験をもとに作成したところに大きな特徴がある。このレポートが、より利用しやすい鉄道のための参考資料となることを願ってやまない。

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